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  • 2017.01.08 Sunday
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十三 ダリアンの館

 ようやくパニックから逃れて、伯爵家での滞在です。 

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■ 十三 ダリアンの館
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 ―その老人ことダリアン・ド・ラ・シャーウッド伯爵はこの森一帯の領主でアーモンドの木に囲まれた邸宅に住んでいた。桜に似た花を咲かせるアーモンドはいまや花盛り。桃色の絵の具をふんだんに使った絵画のような景色で広い敷地の庭は手入れが行き届いていた。生垣として薔薇がいたるところに這わしてあった。もうじきたくさんの蕾をつけて咲きほこるのだという。春の陽気を提供してくれる二つの太陽は仲良く空に輝いていた。
 ―弥生は熱もひきすっかりよくなっていた。弥生は白の部屋着姿がとても可憐でベッドに横になっていた。また、ベッドのそばには、こぎれいな格好のすっかり麗しくなったサツキが座っていた。
「おはよう。気分はどう? 食事を持ってきたよ」
「ありがとう」
 弥生は食欲も出てきてる様子だ。
「近いうち王様のところに連れて行かれるらしい」
「王様? お城?」
「宮殿だそうだよ。ダリアンさんの息子が宮殿から休暇で戻ってくる。その人に連れて行かれる予定」
「うちへは帰れないのね」
 弥生の顔は少し青ざめていた。
「バレーショ山に行けとあったから、そこへたどり着ければ何とかね。宮殿で手がかりつかめるかもしれない」
 サツキは弥生をがっかりさせず元気づけようとして、バレーショ山が地の果てにあるなどとは言わずに伏せていた。
「葉月はどこ?」
「水汲みの手伝い。男が女の格好するのは、この国では禁じられてるんだって。牢屋に入れられるほど厳しい掟らしい。男は男らしく女は女らしく振舞わなくてはいけない。葉月のやつ、あのメイドの衣装、すっごく似合ってたのにね」
「あの神秘はどこからやってくるんだろう?」
「あっぱれな葉月に、大扉も仕方なく、いや、本気で参ってたね」
「わたしんときは、まったく失礼!」
「途中で待ったかけたもんね。扉のあいつ、弥生が素っ裸になるの期待してたよ。ムカつくったらありゃしない!」
「そうだった? だけど、葉月みたいに仕草だけで落としてみたいな」
「葉月は胸ないから、相手から見えないようにさかんに位置を意識して動いてた」
「見事だったわ、ほんとに」
「でも……ひょっとしたら、扉はゲイ?」
「葉月が男と見てハートが射抜かれたんだとしたら?」
「やだあ! 葉月を男にもっていかれるなんてわたし許さないよう」

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十二 ぶどうの実

 ようやく、三人は食べ物にありつけます。大変な状況にいても彼らは若い。三人のやりとりが、ここでも味わえます。

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■ 十二 ぶどうの実
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 ―へとへとだった。限界だった。
 山のふもとにたどり着くと、木立の間の地面には柔らかな草が生えていて、きれいな温泉がわき出しているのを見つけた。温かい湯が心地よい。
 三人は倒れるように横になった。大地が割れて飲み込まれても、そんなことはもうどうでもよかった。ひたすら休みたかった。
 誰も口を開かない。弥生が寒いと言い震え始めた。サツキは弥生を抱いて温めてやる。空の二つの太陽はお互いの距離を一定に保ちながら地平線へと傾きかけていた。茂みの向こうに降りてきた山から続く道があった。もちろん、その道の先を行こうにも、一歩もいけないほど疲れきっていた。
 それでも、葉月がよろよろと立ち上がり、
「何か食べ物がないか探してくる」
 そう言って道のほうへ出て行った。
 サツキと弥生は無言のまま目で見送った。声を出す気力もなかった。しばらくすると、ふたりは気を失うようにして眠っていたのだろうか、誰かが顔を叩くので、サツキがまず目を覚ます。続いて顔色の悪い弥生が目を開けた。
 葉月がたくさんのぶどうの実を抱えて戻ってきたのが分かると大喜びである。毒味は葉月がしてみたと言う。生きてここまで帰れたのだから、このぶどうは食べても大丈夫だと保障した。ピオーネのように大きな粒はおいしそうだ。サツキも弥生もむさぼるように食べた。アッという間に平らげてしまった。
「まだ、ほしい」
 と、サツキが立ち上がると足もとがふらついた。
「また、地面にヒビか?」
 そう言う弥生の顔色はいくぶんよくなり赤くなっている。
「おっと、このぶどうはアルコール成分が含まれてるんだ」
 葉月の声は酔っ払いのそれになっていた。
 三人は、けらけら笑い始め、これまでのいろんな出来事を回想し始めた。笑うかと思えば泣き出したり、ひとしきり、にぎやかな調子でふざけあった。
「もう少しとってこようか?」
 葉月は採集した場所でかなりの量のぶどうを食べてきたのか、赤いどころか顔面蒼白になって目がすわっていた。
「採ってこなくても、そこまで、みんなが行こう」
 と、サツキは言った。


十一 三つの扉

 変な世界にいっちゃった三人はどうなるの・・!

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■ 十一 三つの扉
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 ―倒れていた三人の意識が回復した。シーンと静まり返ったあなたの見知らぬ世界で! 
 青白い光がグレーの空を照らし出し銀色に輝いていた。やがて、雲の向こう側にあった太陽がくっきりと浮かび上がった。
 それと同時に、二つ目の太陽も出現した。聞こえてくるものと言えば、上空を鳥たちがさえずりながら飛んでいくその音ばかり。大地に目をやると緑の草原が続いてゆく。遠方に森がみえる。そこまで白い一本道が続いていた。
「どこ? ここはどこ? どこなの?」三人は立ち上がり口々に叫ぶ。
 メイドの服が黒なのでほこりが目立った。
「まつげ、取れてる」とサツキが言えば、弥生も、「サツキのも、ここについてる」と指摘する。
 葉月は、ウィッグをとって地面に投げ、空を見上げ、
「太陽が二個って、なに?」
 と、心細げにつぶやいた。
 このとき、地響きと共に揺れを感じた。突然、足もとの地面に亀裂が起こった。
「大変だ。逃げろ!」
 サツキがせき立てた。サツキは葉月と弥生を先に行かせて背後から迫る亀裂の様子を見に行った。
 恐ろしい叫び声があがった。弥生が大きく開いた地割れに足をとられて穴に落ちかけている。とっさのことで葉月が弥生の手をつかんだ。弥生に自分の肩をつかまらせ顔と顔とが触れそうになるほど抱き寄せて、やっとのことで葉月は弥生を救出した。
 サツキは、葉月と弥生に、
「全力疾走だ。あっちへ」
 指で合図し息をはずませ叫んだ。
 三人は森の方角へ走っていく。かなり走っただろうか、息が続かず、みんなその場にうずくまってしまった。
「―どういうことよ?」
 サツキが聞くと、
「夢ではないみたい……現実だ」
 葉月が口を開いた。
 弥生は何も言わず身じろぎひとつしない。先ほどの恐ろしいできごとでおびえてしまい生きた心地もしなかった。
「とにかく、行こう。また地割れがやってくるかもしれない」
 サツキは立ち上がって叫んだ。
「どっちへ行くの?」
 葉月はたずねた。
「森の中しかないだろう。引き返せば大地に飲み込まれる。草原は道がないから迷うと危険だ」
「この道を行くしかない」
 と、サツキと葉月は声をあわせた。ふたりが振り返って弥生をみると前へ進むどころか尻込みする弥生がいた。
「いやだよ! 動けない!」
 弥生は両手で髪をかきむしり叫んだ。


十 パーティー

 いよいよ、少し冒険が始まる場面にさしかかります。美少年の図師くんはこれから登場しなくなりますけど、葉月、サツキ、弥生ちゃんたちをヨロシクね〜

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■ 十 パーティー
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「―なんだ、ミスター図師は来ないんだ?」
 と、サツキは物足りなそうに聞いた。
「別の用事を優先したみたい」
 そう答えておいて、葉月はポケットの中を探りながらあちこち何かを探していた。
「付き合い、いいんだか、悪いんだか……なぞの男……ミスター図師」
 弥生は両腕を曲げ腰に手を当てていた。
 ―例のコスプレパーティーに参加するのは、葉月、サツキ、弥生の三人だ。
 電車を降り、バスに乗って、小高い丘陵地帯に建つ館まで、それは長い道のりである。葉月がバイトのときはいつも車に乗せてもらい短時間で来れた。こんなに時間がかかるとは思っていなかった。
 バスの一番後部座席に三人は座っていた。繁華街ではなく住宅街へ向かうバスである。この時間帯の乗客は少ない。
「さっきからなに探してる?」と、サツキは言った。
 葉月が上着のパーカーやジーパンのポケットから手を出したり入れたりしている、それを心配そうに見ていた。
「いや、リップクリーム持ってきたと思ったのに……ない」
 そう言って、葉月はあきらめ顔になった。
「なに……唇でも荒れるの? この春の、こんな、のどかな季節に……」
「いや、今日は女装してみようかと。リップは色つき」と、それは葉月の声。
「うひゃ?」と、サツキ。
「なんで女の子になる?」と、これは弥生の問い。
「そこの奥さんの作った服はすごい数なのに、男用は少しだけ。それも着たくもないものばかり。女ものはいろんな種類があった。ぱっと見ただけでも、あれは差がつく。三人がばらばらにいろんなの着るより、メイドはメイド、ナースはナース、レースクイーンならそればかりと、合わせでやろうよ。もちろんアニメやゲームのもあったよ」
 葉月の提案で、何を着るかに話題が集中した。けれども、意見がまとまることはなかった。やがてバスを降りなければならなかった。
「―あのね、もしヤバイ雰囲気になったら、すぐに退散するの」
 サツキはふたりの顔を見た。
 葉月は、ここまで来て怖気づくのは、そりゃないよ、と感じて、
「悪そうな奥さんじゃないって」
 葉月は困惑した顔つきだった。
「分かってる。コスプレの衣装は露出度高くないものを選ぼう。やっぱりメイドぐらいが無難……」
 腕組みをしたサツキは歩みをのろくした。
「胸の開いたのは、着れない。この胸ですもの」
 葉月は自分の胸を指差した。
「サツキとわたしはメイドで、葉月は執事の服着てれば? 黒執事とかあるかな?」
 ふくよかな胸を押さえて弥生は笑顔で言った。


九 葉月のバイト先

 水槽のお手入れするバイトをしている葉月です。読んでくださいね〜☆ミ

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■ 九 葉月のバイト先
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 ―前回掃除後、二週間経つ水槽には、コケがもうガラス面についていた。一メートルは軽く超える大型水槽には、エンゼルフィッシュや赤や黄色の魚が泳いでいた。水草の緑に映えて魚たちは元気に泳いでいた。
 葉月はバイトで水槽の掃除をしている。あいにく今日はショップの従業員が休みで葉月一人で客のうちへ訪問しなければならなかった。水槽の管理には苦はなかった。葉月も自分の部屋に水槽があるので水換えなどお手のものである。
「すみません、今日は一人なので少し時間かかりますが、いいですか?」
 と、水槽の前で葉月はその家の夫人に告げた。
「かまいませんよ。ええと、この魚がいつも隅にいて、餌のときでもなかなか上にあがってこないの。病気かしら?」
 そう言って、水槽のガラス面に指をさす。その手には緑の宝石がついた指輪をはめていた。だが、ネイルは染めていなかった。年のころは三十代半ばくらいだ。
「少し弱ってますね。この種類の魚は寿命が短いです」
「え? 死ぬの?」
「いえあの……病気になりやすいかもです」
「やっぱり、病気? 他の魚にうつらないかしら?」
「たぶん……大丈夫かと……」
 葉月は口ごもった。こういうやり取りがまだ苦手である。客の不安をあおってもいけないので、コケとりの道具や水草のトリミング用ハサミ、水を抜くホースやポリタンクやバケツなど、それぞれをチェックし始めた。
 夫人は若い男の子に頼りなさを感じながらも、また話しかけた。
「生き物を飼うとどうしても死というお別れに直面する」
「……」
「何匹死なせてきたことか。そのたびにお店にはお世話になって、いろいろ次のお魚ちゃんを連れてきてもらって……」
「すみません」と、葉月。
「謝ることないのよ。わたしの餌の量が多いのかしら。かわいいからついやりすぎる。それにしても魚たちは、はかないものね」
「今日は粘膜保護剤を入れておきます」
「ありがとう。うちにもあるよ。これでしょ?」
「あ、それです」
「仕事のじゃまになるわね。では、お願いね」
 そう言うと夫人はいなくなった。


八 ふたつの片思い

 性同一性障害の葉月。心の中はとても真剣。もうひとつの片思いは誰とだれ? さあ、読んでみましょう。

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■ 八 ふたつの片思い
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 ―葉月は夜中に家族が寝静まると、リビングのパソコンに向かった。ブログに日記をつける。
『今日の部活でね、王子様と部長がとても仲良く話してたの。
部長は女子。そしたら、なんか急に寂しくなっちゃって。
片思いのわたしはやきもち妬いちゃいました。
女なのに、王子様はわたしのことを当然だけど男としてしか見てないもの。
女の子になりたい! まじっ、すっごく辛いです。
女の子になったら、王子様は振り向いてくれるかしら?
なんで、片思いばかり? これって、これからも一生ついてくる悩み?
ほんと酷いです。暗い話でごめんなさい。
本当の女の子がすっごくうらやましいです。
話し変わるけれど、死んだ後、魂は生き残り、また生まれ変わるって信じる?
生まれ変わって女の子になれる日を心待ちにしておくというのも手だけれど、
そんなに待てないよ。わたしは現在のわたしがわたしなの!
来世で記憶喪失の別人になって、今の苦悩が報われると思えない。
こんなの不公平だよ。どうして、こんな辛い思いをしなきゃならないの?
この前ね、違う死生観の話聞いたの。
輪廻転生というのはうそで人生一度っきり。
今度生まれ変わってきたら中性で、
男女の性はなくなる存在としてよみがえるというんだって。ほんとかな?
それだったらなおさら、完全な女の子として生まれてきたかったよ。
だけど、性ってなんだろ……子供をもうけるための役割?
そんなものだけじゃないはず。
きれいを追い求めるのが女の子の使命!
最近、メイクがうまくなってきちゃった。うふっ。
お化粧して外を歩きたいな。
とってもかわいいつもりでいるんだよ。
でもでも、お部屋でメイクしてそれで終わり、
あと落とすときのあの空しさなんてないよ。
胸は扁平だし。あごひげも少し生えてきちゃいました。
いつも抜いてお手入れしてるけれど。
もう……いらいらしちゃう〜〜
だんだん、男子らしくなっていく自分がこわい。
PS 今日は、王子様をものすっごく鋭い眼で睨んでやりました。
部長と仲むつまじくするからよ。くやしい〜』


七 練習風景

 2週連続パール...はお休みしていました。さてさて、続きはどうなったかな? 演劇の練習なのですって。さあさあ、のぞいてみましょう!

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■ 七 練習風景
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 ―いよいよ練習の第一日目。剣のポーズを剣士たちそれぞれがペアで決めていった。ほとんどの数を女子が務めるので、線が弱いのとスピード感がなくなるのは仕方がない。
 口元にうす笑いを浮かべるもの、逆上するもやられてガックリ膝をつくもの。鼻であしらわれてカーッとなるもの。堂々と渡りあうもの。切りかかられて腹立ちまぎれのまなざしを向けるもの。戦いのシーンはみんな盛り上がる。それにしても、女子の声はかん高い。途中から声を出さないようにして取り組んでいくことになった。
 講堂の座席に座って見ていたサツキと図師のやり取りは、さかんに、舞台上の剣士の位置やアクションのやり方など、細かく吟味していた。


六 問答

 図師くんは東大寺先生に会いに行きました。脚本を手直しされて少々気を悪くしていた図師くんです。

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■ 六 問答
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 ―図師は東大寺先生のいる職員室に入って行った。
「こんにちは、先生」
 図師は東大寺に一礼して続けた。
「シナリオのことでお話があります」
「ああ、少し変更してしまったからね」
「先生、あのストーリーは恋愛にはあまり重きを置いていません。あれでは、そのことを強調しているような、そんな感じに受け取れます」
「ちゃんと、王に対して命までもかけるという忠誠心について描かれている……それが図師くんの伝えたいことだろう」
「はい。けれど……あの場面にあんなにセリフが必要でしょうか?」
 そう図師が言うと、東大寺は、他の教員たちの邪魔になるから学生食堂に行くよう提案した。


五 演劇配役

 図師くんが書いたシナリオの配役が決まります。あれれ・・東大寺先生の手直しが入ってますよ・・

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■ 五 演劇配役
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 ―月曜日の演劇部。ミーティングだ。図師の脚本が顧問東大寺先生にも気に入られて、今日は部員みんなの前でそれが読み上げられる。そしてのち、配役について、みんなで決定していくのだ。
 このクラブでは、二年生の主だったものが、役をとっていくのは当然の成り行きとなっていた。聡明な振る舞いのサツキ部長、美しい弥生、イケてる葉月と新入部員だが脚本提供美少年の図師は、だれもが一目置いてあこがれる存在だった。
 台本が三年生たちによって読み上げられていく。一番の年長者たちはさすがに貫禄ありだ。三人しかいなかったけれど一人が二役こなして読み進んだ。
 図師は自作シナリオが劇になるというので、上機嫌だし、金曜日に葉月を助けなかったことが多少心残りではあったが、葉月が友好的態度を崩さないでいるから安心していた。配役について気がかりなものの、まずは部員全員が創作したストーリーを理解し、これでやろうと一つにまとまってくれることを願っていた。
 シナリオはセリフが少ないが剣で戦うアクションを豊富に入れていた。その場面を心に描くと図師は心震えてくるのだ。唯一ラブシーンの場面は手っ取り早く片がつくようにしていた。一輪挿しの花でも色気のない部屋の中にあれば、それだけで華やかになるではないか。そういう趣向は図師でも分かっている。
 ミーティングの席を見渡すと、座席の後列辺り、図師の隣にサツキが座っていた。サツキも熱心に劇の流れを聴いていた。その後ろに葉月と弥生が並んで座っていた。今やこの二つのカップルは公認になる勢いだ。サツキにふさわしい図師が現れクラブ内はさらに落ちついていった。一年前から、葉月の両隣にサツキと弥生。この三羽ガラスは常に光ってきた。弥生が葉月に思いを寄せているのは周知であるが、リーダーのサツキは男女の意識をあまりしないさっぱりしたタイプだからうまくいっていた。そして、図師が加わり四人という安定した人間関係ができたのである。ただし、今のところ、二つのカップルに恋愛ムードはちっとも漂っていない。もちろん、一組は成就しそうにもないが。葉月の内面を弥生が知ってしまえば相当ショックだろう。
 ―雅歌にある。
 揺り起こしたり、かき立てたりしないでください。
 愛が目ざめたい思うときまでは。
 ―こんな悠長な流れでよいものなのか? 何事にも時は備えられているというが忍耐強く待つしかあるまい。
 そして、ラブシーンが読み上げられることになった。一、二行のナレーションで終わるはずなのに手が加えてあった。やたらと恋人二人の会話が多い。三年生は調子付いて心をこめて読んでいる。
 図師は何度も足を組みなおしていた。東大寺先生がシナリオに手を加えているのは間違いない。
 ―このシーンだけで十分近くあるのでは……二分位の予定だったのに……俺はしらねえぞ。
 そう思いながら、図師は窓際に座っている東大寺先生を恨めしそうに見つめた。ラストの戦いの盛り上がりシーンになっても、図師は上の空になってしまった。


四 駐輪場

 葉月がピンチ! 意地悪な人が出てきます。どうなっちゃうんだろう・・

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■ 四 駐輪場
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 ―金曜日。
 部活が終わりバイト先に急ごう。葉月は校内の駐輪場に走った。
 ―いやな予感!
 中学から学校がいっしょのTがいた。数人引き連れている。葉月は自転車に近づくのをためらい壁に身を寄せ姿を隠した。彼らは談笑していてなかなかいなくならない。時間がなかった。思い切って校舎の出口から飛び出した。視線を合わせず自分の自転車へ。
「おお、ユッキー。なんだ、おまえ、久しぶりだなあ」
 Tはスラリと身長が高く日に焼けた顔をしていた。葉月の本名が『幸久』である。Тの口調『ユッキー』には少しからかい半分のニュアンスが含まれて響いた。
「金ある? 金貸してくれよ。ユッキーちゃあ〜ん」
「……」
「ユッキーは男子が嫌いだもん。女子ばかりと遊ぶの〜ってか?」
 以前からそうだと言わんばかりである。

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