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- 2020.01.10 Friday
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■ 二十一 ソレージュ再度登場
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―それは、ソレージュ王と銃士たちだった。
三人の仲間は、大急ぎでピーチに乗ろうとしたが、よじ登ろうとしては、ずり落ちてしまうという繰り返しだった。
すると、ピーチが尻尾ですくいあげてくれたので、ようやくサラマンドラにまたがることができた。先頭に葉月が座り、真ん中に弥生、その後ろにサツキがいた。
「ピーチ! シャーウッドの森へ、ダリアン伯爵の屋敷へ。そこへ! ゴー!」
と、サツキは叫んだ。
「わかったぜ! まかせろっ! しっかりつかまってろよ! いくぞ!」
そうピーチが言って、五百メートルくらい前進したのち、ゆっくりとヘリコプターのように上空へと離陸していく。
「できれば低空飛行してよう!」
ピーチの立て髪をガシッとつかんでいる葉月は、目を固くつむっていた。
「葉月、だいじょうぶ?」
サツキは叫ぶ。
「なんとか!」
葉月は弱々しく答えた。
三人が乗ったサラマンドラが十メートルぐらい上昇したとき、下に目をやると、黒馬に乗ったソレージュが、隊から一人はずれて、こちらへと駆け出していた。彼は弥生の名前を大声で呼んでいた。
「待って! 降ろして!」
弥生は、かなきり声をあげた。
「だめだよ。弥生! もうあきらめて!」
サツキも負けずに鋭い声をあげた。
「サツキ! お願い!」
「なんで?」
「ソレージュに謝るの!」
「もう、いいじゃない……」
「この国の人たちは、純真だもん。わたしの言ったことを、頭っから信じてる!」
「そんなことないよ。腹黒い人たちもいる。同じ人間なのに、変わるはずないし! いやなやつだと失望する前にこの世界からおさらばするんだ!」
すると、先頭に座っていた葉月が口を挟んで、
「出た! ものごと始まる前から心配していくサツキの悪いとこ!」
「ピーチさん! もう少し高度上げてもいいよ!」
と、サツキは目をぎらぎらさせていた。
弥生は必死で訴えて、
「ソレージュは、よき王でいようとしてた。国民の尊敬の的だったじゃない」
「奥さんいるのに、浮気なんて、とんでもない!」
「浮気じゃないんだってば、本気!」
「ぐっ! 弥生のうぬぼれ! ソレージュは、ただの好色一代男。女殺油地獄」
「なによそれ! せめて源氏物語とでも言ってほしいかもっ!」
「光源氏もただのスケベ! 弥生、軽く見られるな!」
「そんな風に見てないってば! 降ろしてえ!」
と、弥生が絶唱すると、ピーチは動きを止めて空中に浮かんでいた。
「あの……行きますか? 降りますか?」
ピーチが聞いてくる。
弥生に耳元で叫ばれたサツキは、数秒の沈黙のあと観念したように、
「もう、いいよ……降りてあげてよ……」
「はいっ。さがりますっ」
ピーチは高度を下げ、やがて、静かに着陸した。
急いで、弥生は滑り落ちるようにして、サラマンドラから降りると、サツキと葉月も続いて同じようにした。
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■ 二十 サラマンドラ
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―三人が乗った馬車は、ひたすら街道を走り続け、途中進路を変えて、レッドリバーぞいに進んだ。
そして、馬車は止まった。
うしろから近づいてくる馬の足音がして、馬車の横につけると馬から人が降りた。
「いかがか?」
マックダリアン伯爵はひとりだった。
「伯爵、ごらんください。これです!」
と、葉月は薔薇を見せた。
とっぷりと日の暮れた、月光のもと、薔薇は赤く輝いていた。
「おお! 見事だ! さあ、降りなさい!」
マックダリアンの声は、はずんでいた。
三人が馬車から降りると、サツキも弥生も男装していたので、伯爵は驚いて、
「ほう……。預言書のとおり、三人の賢者は男性であったのか?」
「これから、もとの世界へ帰ります。こういう服装をしていても、おとがめはありません。動きやすいように着ています」
と、サツキは言い、弥生の代わりに、ことのしだいを話して聞かせた。
弥生は馬車にいるときからずっと口を閉ざしてばかりだった。
「さあ、川へ歩いていこう!」
マックダリアンは三人といっしょに川岸へと近づいていった。
川面には、月がうつってユラユラとゆれている。
この川のなかにサラマンドラが眠っているのだろうか、それとも、闇のかなたから飛来するのだろうか。
一陣の風が吹きわたり、期待と不安の思いが胸をよぎった。
―マックダリアンが薔薇の花をもぎとり葉月たちに分けた。三人の仲間は、花びらをちぎりながら、川に放っていった。そして花びらが川しもに流れていくのを見送った。
それと同時に、静かだった川に、波が立ち始めた。春の大嵐のように風が強くなり始めた。
「丘の上に避難するんだ!」
マックダリアンは大声で叫んだ。
乗ってきた馬車が止まってるところまで駆け上がると、息を切らして、
「あれを見てください!」
サツキが声をあげた。
川のなかから、巨大な生き物が次々とあがってくる!
「サラマンドラだ!」
と、葉月は叫んだ。
しだいに、突風がおさまり、風がやんでくると、
川面はもとのように、月をうつしだして静かに揺れていた。