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- 2020.01.10 Friday
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いよいよ、少し冒険が始まる場面にさしかかります。美少年の図師くんはこれから登場しなくなりますけど、葉月、サツキ、弥生ちゃんたちをヨロシクね〜
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■ 十 パーティー
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「―なんだ、ミスター図師は来ないんだ?」
と、サツキは物足りなそうに聞いた。
「別の用事を優先したみたい」
そう答えておいて、葉月はポケットの中を探りながらあちこち何かを探していた。
「付き合い、いいんだか、悪いんだか……なぞの男……ミスター図師」
弥生は両腕を曲げ腰に手を当てていた。
―例のコスプレパーティーに参加するのは、葉月、サツキ、弥生の三人だ。
電車を降り、バスに乗って、小高い丘陵地帯に建つ館まで、それは長い道のりである。葉月がバイトのときはいつも車に乗せてもらい短時間で来れた。こんなに時間がかかるとは思っていなかった。
バスの一番後部座席に三人は座っていた。繁華街ではなく住宅街へ向かうバスである。この時間帯の乗客は少ない。
「さっきからなに探してる?」と、サツキは言った。
葉月が上着のパーカーやジーパンのポケットから手を出したり入れたりしている、それを心配そうに見ていた。
「いや、リップクリーム持ってきたと思ったのに……ない」
そう言って、葉月はあきらめ顔になった。
「なに……唇でも荒れるの? この春の、こんな、のどかな季節に……」
「いや、今日は女装してみようかと。リップは色つき」と、それは葉月の声。
「うひゃ?」と、サツキ。
「なんで女の子になる?」と、これは弥生の問い。
「そこの奥さんの作った服はすごい数なのに、男用は少しだけ。それも着たくもないものばかり。女ものはいろんな種類があった。ぱっと見ただけでも、あれは差がつく。三人がばらばらにいろんなの着るより、メイドはメイド、ナースはナース、レースクイーンならそればかりと、合わせでやろうよ。もちろんアニメやゲームのもあったよ」
葉月の提案で、何を着るかに話題が集中した。けれども、意見がまとまることはなかった。やがてバスを降りなければならなかった。
「―あのね、もしヤバイ雰囲気になったら、すぐに退散するの」
サツキはふたりの顔を見た。
葉月は、ここまで来て怖気づくのは、そりゃないよ、と感じて、
「悪そうな奥さんじゃないって」
葉月は困惑した顔つきだった。
「分かってる。コスプレの衣装は露出度高くないものを選ぼう。やっぱりメイドぐらいが無難……」
腕組みをしたサツキは歩みをのろくした。
「胸の開いたのは、着れない。この胸ですもの」
葉月は自分の胸を指差した。
「サツキとわたしはメイドで、葉月は執事の服着てれば? 黒執事とかあるかな?」
ふくよかな胸を押さえて弥生は笑顔で言った。
水槽のお手入れするバイトをしている葉月です。読んでくださいね〜☆ミ
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■ 九 葉月のバイト先
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―前回掃除後、二週間経つ水槽には、コケがもうガラス面についていた。一メートルは軽く超える大型水槽には、エンゼルフィッシュや赤や黄色の魚が泳いでいた。水草の緑に映えて魚たちは元気に泳いでいた。
葉月はバイトで水槽の掃除をしている。あいにく今日はショップの従業員が休みで葉月一人で客のうちへ訪問しなければならなかった。水槽の管理には苦はなかった。葉月も自分の部屋に水槽があるので水換えなどお手のものである。
「すみません、今日は一人なので少し時間かかりますが、いいですか?」
と、水槽の前で葉月はその家の夫人に告げた。
「かまいませんよ。ええと、この魚がいつも隅にいて、餌のときでもなかなか上にあがってこないの。病気かしら?」
そう言って、水槽のガラス面に指をさす。その手には緑の宝石がついた指輪をはめていた。だが、ネイルは染めていなかった。年のころは三十代半ばくらいだ。
「少し弱ってますね。この種類の魚は寿命が短いです」
「え? 死ぬの?」
「いえあの……病気になりやすいかもです」
「やっぱり、病気? 他の魚にうつらないかしら?」
「たぶん……大丈夫かと……」
葉月は口ごもった。こういうやり取りがまだ苦手である。客の不安をあおってもいけないので、コケとりの道具や水草のトリミング用ハサミ、水を抜くホースやポリタンクやバケツなど、それぞれをチェックし始めた。
夫人は若い男の子に頼りなさを感じながらも、また話しかけた。
「生き物を飼うとどうしても死というお別れに直面する」
「……」
「何匹死なせてきたことか。そのたびにお店にはお世話になって、いろいろ次のお魚ちゃんを連れてきてもらって……」
「すみません」と、葉月。
「謝ることないのよ。わたしの餌の量が多いのかしら。かわいいからついやりすぎる。それにしても魚たちは、はかないものね」
「今日は粘膜保護剤を入れておきます」
「ありがとう。うちにもあるよ。これでしょ?」
「あ、それです」
「仕事のじゃまになるわね。では、お願いね」
そう言うと夫人はいなくなった。