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  • 2020.01.10 Friday
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二 図師の脚本

 美男子、図師くんは物書きできるんですって・・・・。演劇部の部長さんであるサツキちゃんは、図師くんのストーリーに受けている様子・・

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■ 二 図師の脚本
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 ―翌日の部室、図師はすでに来て待っていた。
 窓から外を眺めていた。校庭の桜はすでに散ってしまい、日に日に葉が伸びて行くのが分かる。体育系クラブ部員のざわめきに混じって、ブラスバンドの演奏も聞こえてきた。学ランを着た応援団は威勢がよい。その声が校舎の谷間にこだまする。
 金網を張り巡らしているコートでは、テニス部員がその抜群の動きで猛烈な一撃のスマッシュを決めた。
 感心して見ていると、背後に人の気配があった。何人かの女子部員が入ってきた。下級生のようだ。図師は新入生なのではっきりとは知らないが、昨日の二年生の面々とは違っていた。
 図師はやわらかな口調で挨拶した。美男子は白い歯が笑顔からこぼれるという正にそれだった。
 ひきつづき、彼は窓枠に背をもたれたまま、彼女たちに横顔を見せ、テニス観戦を続けた。その姿からはあか抜けした感じが伝わってくる。みんなと同じブレザー制服姿だというのに、ちょっと手を窓に当てたり、少し移動する足の動きだけで、すぐにも女の子たちからの人気を集めていくのだ。
 それぞれ、図師のことが気になって、ちらちら見ているのがはっきりわかった。
「―こんにちは」
 挨拶しながら部長のサツキが入ってくると、それに答えてみんなからも挨拶が返された。
「図師くん、シナリオ持ってきた?」
 サツキは図師に近づく。
「これ」
 茶封筒に入った原稿をサツキに手渡した。図師の左手の小指に銀色の指輪がはめてあった。
「あ、見つかったら没収されるよ、リング」
「見つからないようにすればいいんだろ」
 左手をズボンのポケットに突っ込んだ。
 サツキは指輪にはそれ以上関心を示さず、受け取ったシナリオを封筒から取り出した。
「読んでいい?」
「どうぞ」
 図師は優しさと軽い身のこなしで椅子をサツキに差し出した。
 その椅子に腰掛けたサツキは没頭して読み進んだ。大した集中力である。下級生が発声練習に出かけて行ったのにも気がつかなかった。

  そして、読み終わると茶封筒の中にきちんと入れなおして自分の膝の上に置いた。
「タイトルは『レディ・ルズ』」
「うん。去年の秋ごろ書いたんだ。前の学校では誰にも見せなかった。一年の書いたものなんか、相手にされるわけないし、これにふさわしい役者も揃いそうになかった。部員は全部入れても六人しかいなかったから」
「結構おもしろいわね。なかなかだわ」
「配役が難しいか?」
「うちは、部員多いから大丈夫」
「主な役が四人必要だ。女の役が三人と男役が一人。その他大勢のエキストラがいるほうが豪華になる」
「いるよ、部員は一年生入れると二十人は超える。主な役は四人。図師くん、あなたと、葉月と弥生、それにわたし……」 
「葉月……? 男だ。女性役が三人必要なんだよ。男性役を葉月くんでアランなら、俺は降りて、もう一人女役がいる」
「―ルズは女。男装の麗人だよね?」
「そうだ」
「葉月にやらせればいい。これ読んでるとぴったり!」
「そうか?」
「だよ。魅力的なのやってくれそう!」
 カカッと高笑いして、サツキはポケットからキャンディを取り出し、ひとつは図師に与え、ひとつは自分の口に放り込んだ。すぐさまカリカリ噛み砕くと飲み込んでしまった。
「だけどルズ役の葉月くんとアラン役になるなら俺と……口づけするシーンがあるんだよ」
「ひゃひゃ……似合う似合う! 男の後ろ頭が観客に向くというあのポーズだから別にいいじゃない。実際にキスしたら、あなた、お口の周りがルージュはみ出て真っ赤になっちゃうでしょ。舞台メイクはどぎつくするんだから」
「まいったな」
「こんなん書くからよ」
「え? からかってる? 筋書きだめ?」
「いいと思うよ。そんな風にのみこみが早すぎてはいけない」
「なんだよ。その笑い」
「わかんないよ。妙に気持ちがくすぐられるんだもの」
「頼むよ、やめてくれよ。お笑いじゃないんだよ、真剣」
 図師の目には冷酷そうな輝きがさっと光った。
「うん。だから、ゴメン」
 サツキは笑い声を抑えようとすればするほどむせてしまい、苦しんでしまった。
「ごめんなさい」
 そう言ってサツキが席をはずそうと立ち上がると、
 ―葉月がドアの所に立っていた。
「ハロー。葉月くん。図師くんが脚本見せてくれたよ。それにしても、先生は遅いね。弥生もなにやってんだろ……」
 サツキが葉月とすれ違いざま部室からいなくなってしまうと、
 ―図師は、ごく穏やかなものごしで、葉月に挨拶をした。
 特別華奢な葉月は、図師と比べると十センチは低く、図師の優雅に漂う健康的な色気が、葉月の犯しがたく気品のある中性的な魅力と融合して、そこはかとなく……宮廷風騎士の趣が漂ってきた。
「シナリオ書けるんだって?」
「いろんな場面が浮かぶので文字にして残している」
 会話が続かなかった。
 図師は愛嬌はいいほうだがおとなしいし、葉月も神秘的な威厳を身につけた感じで口数が少ない。それでも、葉月は快活さをよそおって、日頃から身につけ蓄えている教養をなんとかたぐりよせて愉快にやろうとした。時には、図師の目を見張る見解が飛び出したりして彼は舌を巻いた。
 葉月が図師の脚本を読もうとしていると、サツキが弥生といっしょに帰ってきた。
 場が盛り上がって葉月は読むのをやめてしまった。サツキは図師と花盛りのような話術を繰り広げる、そして弥生は葉月の側で笑いに興じていた。他の二年の部員たちでさえも、この四人の輪に入れそうもなく遠巻きにしていた。
 そこで、サツキは、図師のシナリオについて簡単に説明し、他に候補にしてもらいたい原稿はないかどうか、そこにいる全員に念を押してたずねた。昨日の今日なので、誰も脚本なんて用意している者はいないのは当たり前である。
「―やあ、みなさん、コンニチワ!」
 東大寺先生だ。
 ―図師の原稿。
 サツキ部長はそれを先生のところに持って行った。
「ほう!」
「一読しました。なかなかのものです。図師くんが書いてあたためていたものです」
「作家がいたのか……」
「先生にぜひ読んでいただきたいそうです」
「四十五分の台本として通用しそうかね」
「はい。図師くん、大したものですよ。このシナリオでよければ、わたしたち、秋の大会に向けてがんばれます」
「そうか。先生も読んでみよう。楽しみだ。脚本がなければ既成のどれかを採用しようかと考えていたが」
「創作劇のほうがやりがいがあります」
「そうだな。では、これを読んで決めよう」
 なにかとしょっちゅう忙しい東大寺は職員室へと帰ってしまう。

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