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  • 2017.01.08 Sunday
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二十二 第四の扉

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■ 二十二 第四の扉
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 ―三人を乗せたピーチは、再び空高く浮上した。
「目的地まで瞬間移動するから、少し気分悪くなるぞ。いいかい?」
「パール国の市街地の上に一度行ってよ。わたしたちが過ごした宮殿の上」
「いいね、それ」
「早く降りたいのがわたしの気持ち……うう……高いところは苦手」
「目隠ししてんだから大丈夫でしょ」
「宮殿はいいからダリアンさんとこに、早くいこう」
「ものごと始まる前から心配してんじゃないよ、葉月!」
「宮殿へ行っちゃえ」
「オオー! レッツ・ゴー!」
「ならば、行きます! ファイアー!」
「ファイアーって……銃砲みたいに……」
 と、サツキが全部言い終わらないうちに、下界が変化した。
 サラマンドラは、宮廷の上空に位置していた。
「すごーい!」
「ブラボー! オーサム!」
 ピーチは自分のわざに喜んでいた。
「オーサムの意味わかんないし……わたし日本人」
「わたしもジャパニーズ!」
「葉月、六角庭だよ、見てごらん」
「目隠しは絶対とるものか!」
「ほら、見て! 天使だよ!」
「パール・ストリングスって、ほんとうなんだ……」  
 葉月は、パール・ストリングスと聞いて、目隠しをおそるおそるとった。
 下界から天空のその上へと、きらきら光る糸が無数にのぼっていた。その糸をハープのように、かなでている天使たちがたくさんいた。天上の音楽が聞こえてくるかのような光景だった。
「あやつるというより、つまびいてる。きっと人間たちと呼吸を合わせてるんだよ。なんて神々しい!」

  葉月は高所恐怖を忘れて感動していた。
「わたしたちにも、糸はあるの?」
 三人は上を見あげた。
「ほら! 糸あるよ! 天使もいる!」
「わたしのは、切れてるよ」
「ソレージュが切ったもの」
「再生するのかしら?」
「どうなんだろ?」
「では、ダリアン邸へ行かれますか?」
「ピーチさん! よろしくです!」
「せーの! ファイアー!」
 サツキのかけ声で、
 ピーチは、パール市街地上空から、ダリアン邸まで瞬間移動した。
 ―ダリアン邸では、三人のために盛大なお別れの昼食会がもよおされた。マックダリアン伯爵の父であるダリアン伯爵は、サラマンドラに乗って帰ってきた三人の仲間を勇者か賢者のように接してやまなかった。
「今日は、うちでゆっくりして、明日の早朝に出発してはいかがかな?」
 と、ダリアン伯爵は言った。
「ありがとうございます。ピーチに乗ると数秒後には目的地に着いているのです。バレーショ山へ早く行きたいと思います」
 サツキは、はきはきとしていた。
「以前二年前だったかに、黒髪の女の子が迷い込んで、うちで一年くらいは暮らしていただろうか……。バレーショ山へ行きたいと旅立っていったきり、帰ってこなかった」
 ダリアン伯爵の顔色はくもった。
「どうやって行ったんですか?」
「信頼できる筋の隊商に頼んで連れて行ってもらったのだ。わたしは、ひきとめたのだが、故郷に帰りたいと、しきりにせがまれたのだよ」
「隊商は何も音沙汰とかなしで?」
「バレーショの村において帰ってきたと言ってたな……よほど、日本が恋しいとみえましたね。バレーショ山には日本へ通じる道があるとでも?」
「以前お話したように、『戻りたければマウント・バレーショへ』と書いてあったのです」
「日本は美しいところですか?」
「パール国と同じくらい! そして日本は便利がいいところです」
「そうですか」
「お菓子もたくさんあって、おいしいし。いろんなことが、ここよりもはるかに早く、めまぐるしく変わりますけど」
 サツキは、懐かしさがこみ上げ、大きな目を見開いて言った。それ以上の会話もはずむ様子もなく、
「わかりました。道中の食料品はありますか?」
「はい。マックダリアン伯爵の用意してくれたものが十分あります」
 午後一時を過ぎるころになって、サツキたちは立ち上がった。
 ―そして、再び、ピーチに乗ると、
 それは瞬時に消えていなくなってしまった。
「バレーショ山には、おそろしい魔物や毒蛇が住む……と聞くが」
 そうひとりごとを言って、伯爵は邸宅の中に入っていった。
 ―そして! ついに! 目的地! バレーショ山上空に現れたピーチであった。
 下界の山は、緑の深い樹木におおわれていた。バレーショ地方は亜熱帯地方で、大きく蛇行する大河がバレーショ山からはるか向こうの平原に流れていた。
「で?」
 ピーチが言った。
「うん。番地なんか分かるわけないし……」
 サツキは、まごついた。
「シャーウッドのダリアン邸とか、そんな感じでいってもらえば、いいんで」
 と、ピーチは答えた。
「ええと、ええと……異世界に通じる第四の扉へ!」
「オーケー!」
 ―うっそうと茂る木々の間に、ピーチは、不時着するように現れた。
「ここですぜ。鎧がないのじゃ、俺、やわ肌なもんでして、身にこたえますぜぇ」
 ピーチは、枝で傷をおったらしく、体の大きいわりにとても小さく感じる前足を痛そうに縮めてた。
 三人は、ピーチに応急処置をして、
「ピーチ、だいしょうぶ? しばらく、ここで待っててくれる?」
「回りはジャングル……。扉はあるかね? あ、あ痛たた……」
 ピーチは本当に痛そうだった。
「ちょっと見てくる」
 あたりは、扉らしきものはなにもなかった。
「あまり離れてはだめだよ。迷ってしまう」
 サツキは言った。
 しばらく、枝葉をかき分けて進んでいくと、わりと広い場所にたどり着いた。中央に一本の木があるだけだった。その木の下に立った。
 上方から声がする。
「―なにかお探しですか?」
 それは、木に巻きついている大蛇だった。全身がエメラルド色で赤い目が印象的だった。
 弥生は恐れをなして後ろに退いた。
 サツキは大きな目をさらに見開いていた。
 葉月は、サツキの背中について気持ちそっと隠れていた。
「出口です」
 と、葉月はサツキを盾にしながら答えた。
「出口とは? 扉ですね」
 蛇は知っている。
「そう、でっかいやつ」
 葉月は、サツキの横に一歩出た。
「ふん? そこに『ある』のが見えないと?」
 蛇は舌をひょろひょろとのぞかせてた。
 周りには扉などない。
 葉月は、サツキに向かって、
「しゃべる蛇って、そういえば、うそつきよね?」
「たしかにねぇ、パール国のバイブルに書いてあった。世界で一番美しい動物に、嘘つき魔物が入って悪さして、ヘビくんの足は失われ、一生ニョロニョロ生活送るようにさせられたとか……エリンギ公爵夫人のところで読んだよ……むごいよね」
 聡明なサツキは思い出していた。蛇の存在を忘れたかのようなサツキは見解を付け加えて、
「うん。魔物って、たいてい残酷なんだよ。そんでもって、哀愁漂わせて、人間の同情を買おうとするんだ! そして、滅びる運命をともにしようなんて魂胆みえみえなんだ。それでも愚かな人間は乗ってしまうんだなあ」
「荘厳な音楽なんかが似合ってさ、ついでにオルゴールなんかのメロディーで泣かせてくる」
「そうそう! あの映画の見すぎだけど当たり!」
 と言って、緊張感がピークになりすぎて、サツキは可笑しさでふきだし、
「でも、音楽は流れてこないよ。鳥のさえずりばかり。この自然界を見よ!」
 と鋭い指摘をした。
「だよね。ヘビを見かけで判断してはだめ?」
 葉月は確信が揺らぎ始めた。
「どうかな。警戒は怠らないようにしよう。もしかしたら、悪いことしようって誘ってくるんだ」
「そう! だまされてはいけないよ!」
「だいたい、悪魔と対話してはだめなんだ。お話しすると、相手のペースに絶対巻き込まれるらしい」
「無視?」
「無視!」
 サツキと葉月の会話が終わると、薄ら笑いを浮かべるだけだった。
 大蛇は不気味だった。にゅる〜と動いて木に巻きつきなおしていた。
 沈黙のときが過ぎていく……。
「無視してたらなにも始まらない。話してみようか……」
 と葉月が言う。
「そのようね、まかせた、葉月」
 とサツキは答えた。
 葉月は大きく息を吸い込み、数歩進んで、
「あなたの体はきれいな模様ですね」
「どうもありがとう!」
 たったそれだけなのに、優雅という言葉が似合いの大蛇の声音だった。
 葉月は、もっと話したいという気にさせられて、
「その木が、あなたのねぐらですか?」
「お気に入りの場所」
「扉が見えますけれど、そこから出たことがありますか?」
 葉月には扉は見えていないのに嘘をついた。
「ここから出たいものは誰一人この世界にはいないよ。あなたたちは『出口』というからには、異世界の人たちね」
 大蛇の言うことには、葉月は答えず、
「あの……リンゴ食べますか?」
「リンゴ? わたしは肉食家。とくに若い人間などは好み」
 大蛇は口をカーッと開いて威嚇した。
 三人は心臓が止まりそうだった。
 葉月は、勇気を奮い起こして、
「扉の鍵とかは、あるのかしら? 今までの扉は鍵穴がありませんでした」
「ふふふ。ドアなんてノックすれば簡単に開いてしまうでしょうに。たたきなさい、そうすれば開かれます。というでしょ。それよりも、遊びましょうよ」
「先を急いでるものですから」
「なにをそんなに急ぐの?」
「旅人は美しいものを求めて、さすらうのです。より多くの美に出会いたい一心で先を急ぐのです」
 葉月は真剣な面持ちで言った。
「なるほど」
「それにしても、あなたは、すばらしく美しい! ほら、その豪華な『扉』を背景にしているところを見てみたいものです」
「ほう?」
 大蛇はキョトンとした。


「ヘビは生き物の中で一番きれいだというのは本当です。人間は、その美しさを理解できず、恐れおののいて縮みあがってしまうのがオチですが……。昔のだまされたというトラウマのせいで、ヘビに嫌悪感をいだくようにと本能が備わっているのでしょうか……。けれども、わたしは、いえ、ここにいる三人は、あなたの美を理解できます。それをめでようとして、はるばるパールからやってきたのです」
 そう葉月がでたらめのようなもっともらしく聞こえるようなことを言うと、サツキと弥生は、深くうなずいて同意した。
「扉をバックにポーズ? おもしろそうね……」
 蛇は盛んにちょろちょろと舌のぞかせていた。
「わたしたちは詩人であり画家であり音楽家であり、つまりアーチストなのです!」
 葉月は自信を持って言い切った。
 すると、大蛇はするすると、木から降りてきて、あるところで立ち止まった。
 そのとき!
 透明だった扉がはっきりと現れたのだ!
「おおお! すばらしい! みごとな絵!」
 三人は拍手喝采した。それから小声で、
「この世界の人たちや、動物も? のせられやすいよね?」
「そうね」
「もう一息だ!」
 葉月は、大蛇がとぐろを巻いているところに来て、
「ほら、もっと首を伸ばして、舌をちろちろとやってくださいよ……」
「あまり近寄ると、反射で跳びかかってしまうから、離れてなさい! 飲みこんじまうよ! かなしいサガなんだよう!」
 そう言うと、大蛇は大きく首を持ちあげた。
「こんな感じ?」
「オーサム!」
 と、葉月はピーチの口真似で言ってみた。意味はよくわからなかったが。
(オーサムとはawesomeと英語で『カッコイイ』の意味)
 すると、さらに喜んだ大蛇は、頭をろくろ首のように伸ばしたり縮めたりした。
 そこで、サツキが即興で詩を作って歌った。

 ヘビー きれいなヘビー
 ジャングルの中で ベイビー
 キング・オブ・キング・ヨー・ヘビー
 オー 柄つきオーサム ベイビー 


 青銅 聖堂 カテドラル ドア ヘビー
 バッスクリン バックスクリーン オー ベイビー
 みっどり 色っとりどりっ 重っ ヘビー 
 ゴージャス デンジャラス じゃら蛇らっす ベイビー

 サツキは手拍子をして二回も三回も歌ってみた。
 大蛇は、リズムに合わせて踊り始め、
「いやあ! 楽しい! 毎日が暇で暇で、獲物がやってくるのを待つだけの生活だったもんでねえ」
「そのドアの向こうの景色が、扉の形で切り取られたように長方形が、きみの後ろにあると、もっとしゃれているかも! アートだよ!」
 などと、葉月が薦めると、
 大蛇は尻尾で扉をとんとんとノックした。
 叩けば簡単に開いてしまうというのは本当だった。
 それで、その向こうは真っ暗で、例の宇宙の壷だけが光っているのがみえた。
 三人は内心小躍りする。
「ヘビさん、さあ、いらっしゃい! いっしょに踊りましょう!」
 葉月は、大蛇がこちらに近づいてきて、青銅の扉の前からいなくなってくれることを願った。
 大蛇は葉月に従って地面をくねくねと這って愉快そうに着いていく。蛇の後ろからサツキもついて歌い続ける。
 弥生は、サツキに耳打ちした。
「ピーチに、日が暮れても帰らなければ、パール国に帰って、と告げてくる」
「気をつけて」
 サツキが言うと弥生は来た道を引き返した。
 ―サラマンドラは茂みの中にいた。
「ピーチ、ぐあいはどう?」
 弥生は、ピーチの顔のところにいた。
「だいじょうぶ」
「ありがとう。扉は見つかりました。わたしたち帰れます。夕暮れ後、もどらなければ、ここを早く飛び立ってパールへ帰ってくださいね」
「わかったぜぇ。また、会えるといいなあ! 女の子を乗せたのは、俺が初めてのサラマンドラだ」
「うん。またね。元気でね。ほんとにありがと! ソレージュ王によろしく伝えてください」
 そう言うと、弥生は涙があふれた。この世界に来て緊張の連続で、涙が流れてくる暇もなかったのだった。
「王様と恋したんだもんなあ……」
「あれよ、あれよと時が過ぎて、味わってられなかった」
「今度来たら続きやりなよ。あんた、王のこころに薔薇を咲かせた人だろう? 咲かせた人間には特権があって、こころの中で呼んでくれるだけで、サラマンドラはその人のところへ現れるんだぜ。もちろん、俺たち全員がレッドリバーに帰ってしまえば無理な話だが……」
 ピーチが、やさしそうな表情で首をかしげると、その愛らしさに思わず弥生はほほえんだ。それから、弥生は、ピーチのほほの辺りにキスの挨拶をして別れたのだ。
 ―弥生が扉の場所に戻ると、大蛇とふたりはまだ円を描いて踊っていた。
 サツキと葉月は弥生に目配せをした。
 弥生は、扉の向こうに立った。
 歌と踊りに酔いしれている大蛇が、扉と平行に並んだ位置に来ると、蛇の頭のところにいる葉月と、尻尾の位置にいるサツキは、うなずきあって、扉の向こうに行き、すばやく扉を閉めた。
 扉が閉まり終わる前に、弥生は、こころのなかで、
(ピーチ、ありがとう。大成功! なにかの危険が迫らないうちに、仲間のところへ早く帰って!)


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