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  • 2017.01.08 Sunday
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二十一 ソレージュ再度登場

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■ 二十一 ソレージュ再度登場
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 ―それは、ソレージュ王と銃士たちだった。
 三人の仲間は、大急ぎでピーチに乗ろうとしたが、よじ登ろうとしては、ずり落ちてしまうという繰り返しだった。
 すると、ピーチが尻尾ですくいあげてくれたので、ようやくサラマンドラにまたがることができた。先頭に葉月が座り、真ん中に弥生、その後ろにサツキがいた。
「ピーチ! シャーウッドの森へ、ダリアン伯爵の屋敷へ。そこへ! ゴー!」
 と、サツキは叫んだ。
「わかったぜ! まかせろっ! しっかりつかまってろよ! いくぞ!」
 そうピーチが言って、五百メートルくらい前進したのち、ゆっくりとヘリコプターのように上空へと離陸していく。
「できれば低空飛行してよう!」
 ピーチの立て髪をガシッとつかんでいる葉月は、目を固くつむっていた。
「葉月、だいじょうぶ?」
 サツキは叫ぶ。
「なんとか!」
 葉月は弱々しく答えた。
 三人が乗ったサラマンドラが十メートルぐらい上昇したとき、下に目をやると、黒馬に乗ったソレージュが、隊から一人はずれて、こちらへと駆け出していた。彼は弥生の名前を大声で呼んでいた。
「待って! 降ろして!」
 弥生は、かなきり声をあげた。
「だめだよ。弥生! もうあきらめて!」
 サツキも負けずに鋭い声をあげた。
「サツキ! お願い!」
「なんで?」
「ソレージュに謝るの!」
「もう、いいじゃない……」
「この国の人たちは、純真だもん。わたしの言ったことを、頭っから信じてる!」
「そんなことないよ。腹黒い人たちもいる。同じ人間なのに、変わるはずないし! いやなやつだと失望する前にこの世界からおさらばするんだ!」
 すると、先頭に座っていた葉月が口を挟んで、
「出た! ものごと始まる前から心配していくサツキの悪いとこ!」
「ピーチさん! もう少し高度上げてもいいよ!」
 と、サツキは目をぎらぎらさせていた。
 弥生は必死で訴えて、
「ソレージュは、よき王でいようとしてた。国民の尊敬の的だったじゃない」
「奥さんいるのに、浮気なんて、とんでもない!」
「浮気じゃないんだってば、本気!」
「ぐっ! 弥生のうぬぼれ! ソレージュは、ただの好色一代男。女殺油地獄」
「なによそれ! せめて源氏物語とでも言ってほしいかもっ!」
「光源氏もただのスケベ! 弥生、軽く見られるな!」
「そんな風に見てないってば! 降ろしてえ!」
 と、弥生が絶唱すると、ピーチは動きを止めて空中に浮かんでいた。
「あの……行きますか? 降りますか?」
 ピーチが聞いてくる。
 弥生に耳元で叫ばれたサツキは、数秒の沈黙のあと観念したように、
「もう、いいよ……降りてあげてよ……」
「はいっ。さがりますっ」
 ピーチは高度を下げ、やがて、静かに着陸した。
 急いで、弥生は滑り落ちるようにして、サラマンドラから降りると、サツキと葉月も続いて同じようにした。

  ソレージュ王の馬がトロットで近づき、弥生の前まで来てピタリと止まった。
 馬上からソージュは弥生を見おろし、馬からスタッと、いかにも王者らしくカッコよく降り、たたずむ弥生を直視した。彼のマントの下に長い剣があった。
 弥生はうつむき、サツキと葉月は、弥生の数歩うしろにいた。弥生が男装しているのを見て、
「ほう。男だったのか! 大うそつきにだまされていたってわけか!」
 と、ソレージュは吐きすてるように言った。
「女です……」
 弥生は小さな声で答えた。
 ソレージュは、大またで弥生に近づき、彼女の襟元をつかみ、着ている服を引き裂いてしまった。
 弥生の胸がはだけて、あせったソレージュは自分のマントを脱いで彼女にかけ、
「女性であることは真実か、すまないことをした」
「事実、女ですから……。いっしょにサラマンドラを呼び起こす約束、破ってしまって、お許しください」
「なぜ、逃げる必要があるのです?」
「わたしは、この世界のものではありません。もとの世界へ戻るのです」
「あなたのいう『愛』というのは偽りであったか……」
 そう言うソレージュの言葉に弥生は何も答えなかった。
「『永遠にあなたとともにいます』と、言いましたね」
「はい」
「それは、うそでしたね」
「そんな言葉がふさわしいと思って……」
「くだらない物語の読みすぎですか?」
「歌です。国で、はやっていました」
「その詩人を宮廷にむかえたいものだ……」
「三ヵ月で飽きますから」
「なるほど、飽きるか……。『陛下とわたしのこころは結ばれている』これについてはどうだ?」
「尋問ですか?」
「答えなさい! ヤヨイ!」
「赤い糸だとか何とか……言うじゃないですか……」
「赤いか青いかは知らないが」
「つい」
「もてあそびましたね」
「あの時はそう思いました」
「わたしも同様の思いだった……。それで、今では切れたと? 飽きるのが、あまりにも、早すぎませんか?」
 ソレージュの顔は悲しみでゆがんだ。
「切れたのかどうかさえ、わかりません」
「まだ、思わせぶりなことを言うのか!」
「ソレージュ! わたしには、よく分からないの。人を愛する気持ちとか、よく分からない!」
「おお! その声だよ! もう一度、ソレージュ、と呼んでください! わたしのいとしい人! もう一度ソレージュと……」
 ソレージュは、震える手を伸ばして、弥生を抱きしめたい衝動に駆られていたが、理性がそれを押さえて引っ込めてしまった。
「陛下……」
 と、弥生は尊敬のまなざしで言った。
 ソレージュは大きく息を吐き出して、
「ああ、そうだな。わたしのこころに薔薇の花を咲かせてくれたのはあなたです。わたしがこの国の王であることを思い出させてくれました。国の秩序を守るには、王が国民の模範となるような行動をとらねばなりません」
 ソレージュの顔はひきしまった。
 弥生は、ソレージュの美しさに、こころ打たれて、
「『ソレージュをずっと慕い続ける苦しみが待っていることでしょう』これは本当かもしれません。そんな気がしてきました」
「はは。ヤヨイも、よく覚えているんですね」
「将来は、演劇で活躍したいので、セリフを覚えるのは得意です」
「セリフね。あなたが言ったことは、全部セリフですか?」
 ソレージュは乾いたこころで言った。
 弥生は少し怒ってしまった。
「ソレージュ! ソレージュ……ソレージュ! 呼んであげました。これで満足?」
「ああ、満足だとも」
 そう言って、ソレージュはすらりと剣を抜いた。
 弥生の恋愛感情の未熟さを見破られ、弥生は、切られる! と身をすくめた。
 ソレージュの剣は、弥生の頭の上をさっと横切り、今度は、ソレージュ自身の頭の上をスパッと切った。
 剣をさやにおさめると、
「あやつり人形は、もうごめんだ!」
 ソレージュは苦しそうにうめいた。
 衝動とは! どうしようもないものだ!
 弥生は、ソレージュの胸に飛び込んだ。
 ソレージュは、抱きしめるのをためらいながらも、手は自然に弥生を包んでいった。
 すると、遠巻きに見ていた銃士たちが、だんだんとこちらに近づいてくる。それがソレージュの目に入り、
「ずうっと、こうしていたい……が、サラマドラにつける甲冑製造のこと、手配せねば……」
「かっちゅうってなあに? ソレージュ、こういうのが愛というのね」
 弥生は、うっとりとしていた。
 ソレージュは反対に冷静そのものであった。あやつり人形の糸が切られてしまったからだろうか……切ない気持ちは、かなしいかな、どこかへ吹き飛んでしまっていた。
 すると、うしろから声がした。
「もう時間だよ。わたしたち、行くから!」
 と、サツキは言い、葉月はあごに手を当てウインクしていた。
 弥生は、ソレージュの胸から離れると、
「王様のお仕事、がんばってください」
「さよならのキスを……」
「忘れられなくなるのは、いやです」
「ははは! あなたは、『ずっと慕い続ける苦しみが待っている』と言われたのだ。『ソレージュのことは、いつも、わたしのこころにありますから』そうも言ったね。それでは、忘れられないようにしてあげよう!」
 そう言うと、ソレージュは弥生に、愛情のこもった深い口づけをした。そして、ヒラリと馬に飛び乗り、
「ヤヨイ! あなたは、こんなキスを残していったわたしを責めてはだめだよ! これからは自分の言動には責任を持ちなさい!」
 ソレージュの馬はギャロップで小さくなっていった。銃士たちの集団と合流して、どんどん遠ざかって行く。だれがどれだか分からなくなってしまった。そして、軍勢はサラマンドラを取り巻いていった。
 弥生は、甘い戦慄の感覚が残っている唇を手でおおって、
「やだ……好きになってしまったかも……」
「この世界に残るんなら、どうぞ!」と、サツキ。
「ソレージュ、なんだよ、あいつ。サラマンドラさえ手に入ればいいって感じじゃん。結局、弥生を引き止めることをしなかった……。しかも、なんつう自信たっぷりな態度! 弥生、好きになるんじゃないよ」
 そう言って、葉月は、遠くにいる数十匹のサラマンドラと人間たちと砂ぼこりを眺めていた。
 側にいるサラマンドラのピーチが、ゆっくりと顔を向け、
「サラマンドラが地上に出てくるということは、戦争が始まるということなんだぜ! お子様のお遊びは終了したんだ……。いったい何頭の俺たちが残るものやら……」
「子供の遊びじゃないぞ! 命がけの恋をしてこそ、男というものだ!」
 と、葉月が言うと、ピーチは賛同して、
「兄さん、男とはそうなのかい? よし! いいぞ! 人間のそんな心意気に、俺たちは従うんだ!」
「わたしは『兄さん』じゃないんだ。男装してんだ! だから『姉さん』と呼んでね。それに女も命がけの恋をするんだよ。女とか男とかは関係なし。わたしの間違い。訂正します」
 そう言って赤面した葉月は、サツキと弥生の顔を見た。
 サツキは苦笑いをして、
 弥生は、地面の石ころを蹴っていた。

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