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  • 2017.01.08 Sunday
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二十 サラマンドラ

 
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■ 二十 サラマンドラ
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 ―三人が乗った馬車は、ひたすら街道を走り続け、途中進路を変えて、レッドリバーぞいに進んだ。
 そして、馬車は止まった。
 うしろから近づいてくる馬の足音がして、馬車の横につけると馬から人が降りた。
「いかがか?」
 マックダリアン伯爵はひとりだった。
「伯爵、ごらんください。これです!」
 と、葉月は薔薇を見せた。
 とっぷりと日の暮れた、月光のもと、薔薇は赤く輝いていた。
「おお! 見事だ! さあ、降りなさい!」
 マックダリアンの声は、はずんでいた。
 三人が馬車から降りると、サツキも弥生も男装していたので、伯爵は驚いて、
「ほう……。預言書のとおり、三人の賢者は男性であったのか?」
「これから、もとの世界へ帰ります。こういう服装をしていても、おとがめはありません。動きやすいように着ています」
 と、サツキは言い、弥生の代わりに、ことのしだいを話して聞かせた。
 弥生は馬車にいるときからずっと口を閉ざしてばかりだった。
「さあ、川へ歩いていこう!」
 マックダリアンは三人といっしょに川岸へと近づいていった。
 川面には、月がうつってユラユラとゆれている。
 この川のなかにサラマンドラが眠っているのだろうか、それとも、闇のかなたから飛来するのだろうか。
 一陣の風が吹きわたり、期待と不安の思いが胸をよぎった。
 ―マックダリアンが薔薇の花をもぎとり葉月たちに分けた。三人の仲間は、花びらをちぎりながら、川に放っていった。そして花びらが川しもに流れていくのを見送った。
 それと同時に、静かだった川に、波が立ち始めた。春の大嵐のように風が強くなり始めた。
「丘の上に避難するんだ!」
 マックダリアンは大声で叫んだ。
 乗ってきた馬車が止まってるところまで駆け上がると、息を切らして、
「あれを見てください!」
 サツキが声をあげた。
 川のなかから、巨大な生き物が次々とあがってくる!
「サラマンドラだ!」
 と、葉月は叫んだ。
 しだいに、突風がおさまり、風がやんでくると、
 川面はもとのように、月をうつしだして静かに揺れていた。

  静かな静かな平和の夜……。サラマンドラはよみがえり。
 サラマンドラの群れは川岸から離れない。十頭以上はいる。暴れる様子も、仲間どうしで、けんかするでもなく、火なんか噴くなど、もってのほかだった。月光を背景に黒い影が不気味にあるだけで、なかには、のんびりあくびをしているものもいた。丘から見渡しているのには、ほんとうに穏やかで、おとなしいサラマンドラがいる川岸の光景だった。
 ―さて……。
「ラ・ビーアのみなさん、本当に感謝します」
 マックダリアンは三人の仲間に握手を求めてきた。
「伯爵、わたしたちはラ・ビーアのものではなく、日本というところから来たのです」
 と、サツキは答えた。
「はは。そうであったな。ラ・ビーアは地図にも、のっていない架空の領地だ」
「ひー。そんないい加減なことで、わたしたちを宮廷に送られたのですか?」
 葉月は驚いた。書庫の役人たちがいろいろ質問して来てたはずだ。そのたびに、はぐらかすのに苦労したのを思い出した。
「ダリアン・ラ・シャーウッド家の信頼は厚いのだ。たとえ、作り話でも、このように通用すると証明されたんだな。よくぞ、今日まで、ラ・ビーアで通された。さすが賢者だ!」
「ひー。そんなことで! パール国は大丈夫なのですか?」
「はっはっはっ! サラマンドラだ! 火を吐く竜だぞ!」
 伯爵は有頂天だった。
「……」
「ジャン・ハヅキ、有能な側近がたも、おられるのだよ。パール人は愚かだと、みくびってはならない!」
 伯爵は、威厳のある声だが、優しい調子だった。
 するとそばにいた、サツキが、月を見つめながら、
「ソレージュ王は、お若いし……失恋したとかで騒がれるかも」
「移り気な王であられる。別の恋を見つけられるにちがいない。これから戦争が始まるのだぞ。王は忙しくなられる。遊びは終わりだ!」
「この先も王妃がかわいそう!」
 と、サツキは小さな声で言った。
「人間には、いろんな試練がつきまとう! お若いあなたがたも、人生、これからですな」
「はい。お世話になりました」
「明日の朝早くまでには、どれか適当なのを選んで、サラマンドラに命じて発ちなさい。午前中に、わたしは連隊をつれてやってくる。あとは、こちらで、サラマンドラは引き受けるから、そうなれば、きみたちは近づけない。うっかり近づくとスパイ容疑でつかまってしまうぞ」
「サラマンドラは、言葉が通じますか?」
 葉月はたずねた。
「たぶん……」
「通じなかったら?」
「乗るための訓練が必要かもしれんな」
「すぐには、帰れませんね?」
「馬車だが、ルカに、明日の朝まで、ここにいるように命じておる。サラマンドラに乗るのが無理なら、シャーウッドまでは一日でたどりつく。ダリアン邸に逃げなさい。父が、かくまってくれよう」
「伯爵、あなたは、よいかたですね」
「神の使者に丁重に接していくことは当然のことだ」
「日本にも、よい人がいるといいな……」
「いるであろうに。そして、あなたがたも、そうなればいい」
「わたしたち……神を知りません」
「神は人間のことを全部一人残らず知っておいでだ。あたたかくて力強い方だぞ!」
「あやつり人形になればいいと、言われるのですか?」
「はっはっはっ! ジャン・ハヅキ! 人間には自由意志もあるのだ!」
 そう言うと、マックダリアンは馬にまたがり、
「幸運を祈る!」
 馬は、闇に消えてしまった。
 ―三人は心細くなった。すると、馬車にいたルカが食料を運んできて、
「これを食べて元気を出しなさい。火をおこそう」
「ありがとうございます」
 サツキは礼をした。
「この目でサラマンドラの復活を見届けた。みなに話して聞かせるのが楽しみだ」
 と、御車のルカは言った。それから、たきぎに火をつけた。
「食事のあと、川まで降りてみよう。今夜は眠るわけにはいかない」
 そう言って、サツキは、パンやソーセージなど、てきぱきと並べていた。
 焚き火の明かりが、言葉少ない人間たちの顔を照らしていた。
 川岸のサラマンドラは声を出している風もない。
 春の夜は、おだやかで、やがて、睡魔が訪れた。
「―大変だ。眠りこんでた!」
 葉月は、サツキと弥生を起こす。
 ルカは、すっかり寝ていて起きない。
「サラマンドラは?」
 サツキは急いで川の方角に目を凝らした。
 そこには、あくびばかりしているサラマンドラがいる。
「下へ行こう!」
 ―サラマンドラは大きかった。普通車一台分の長さはある。
 サツキはサラマンドラに大声を張りあげて、
「人間の言葉がわかるものはいる?」
「うお。何百年ぶりかに聞く声だ」
 一匹のサラマンドラが答えた。ついでに、大きなあくびをして、
「おや、失礼! 寝起きで、頭が、すっきりしないぜ」
 サラマンドラの声は男の声だった。顔は、まだ夜明け前で、はっきりと見えない。
 恐ろしい形相だとこわいので薄暗くてよかった。
「名前はあるの?」
 サツキはたずねた。
「ピーチだ。兄さんの名は、なんてぇいうんだ?」
「サツキ。女だけど……」
「そうかい。女だったのかい。まっ、よろしくな」
「ピーチって、かわいい名前だこと」
「体が桃色なんでぇ」
「立て髪、ふさふさ、すごい」
「どうも」
 ピーチは立て髪を、数回後ろになびかせたように動かせてみせた。
 サツキはユーモラスな動作をするピーチに好感をいだいて、
「で」
「うん。飛んでいってやるぜ」
「話が早い」
「まどろっこしいのは嫌いでね。人間はいつも俺たちに乗りたがる」
「なるほど。ピーチ、ちょっと、待ってて。友達と話があるの」
 サツキは葉月と弥生と向かい合うと、
「どうする?」
「三人がいっしょに乗れる?」
 葉月はたずねた。
「聞いてみよう」
 そう言って、サツキは、ピーチを見上げた。
「三人が乗ると重い?」
「普通は一人乗りだが……ええと、たしかマニュアル本が……」
 ピーチは、あちこち自分の体を触っていたが、何も見つからなかった。
「きみたちは、体重が軽そうだから三人まとめてでも、かまわんだろう」
 空が夜明けとともに白み始めた。
 そして、だんだんとサラマンドラの姿が、はっきり分かるようになった。
 体はピンク色で、頭の左右に赤い三つ角があった。それが立て髪のようにみえていた。まるでヒップホップのミュージシャンのような風貌とでもいおうか。顔は恐ろしいというよりも目が小さく愛嬌があった。前足は四本の指で後ろ足は五本の指があった。頭から尻尾のつけ根までが三メートル、尻尾の長さは三メートルはある。
 まさに、その容姿はウーパールーパーそのものであった。
「アホロートルだ……」
 と、葉月が言うと、
「アホ? アホって、おばかさんなの?」
「ちがう。学名だよ。メキシコ・サラマンダーともいうんだ」
 それにしても、ウーパールーパーにそっくりで、お腹がでっぷりとしたサラマンドラは、あくびばかりをしている。
 拍子抜けしたサツキは、サラマンドラに向かって、
「ところで! ピーチさん! 火を吹く! とかいうのは本当ですか?」
「本当だとも!」
 そう言って、ピーチは小さい目がとても愛らしいのに、ゴーッと火を! その大きな口から出したのだった。すると、仲間のサラマンドラも一斉にあちこちで火を吹いた。
 そのすさまじさに、三人は身を伏せた。
「ははははは……。どんなもんだい!」
 ピーチが、体を揺らせて笑うと、周りのサラマンドラにも笑いのどよめきが起こった。
「はい、すごいです。ピーチさん、それでは、わたしたち、そろそろ、乗せていただきたいと……」
 サツキが言い終わらないうちに、馬に乗った軍勢が遠くから現れた。

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