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  • 2017.01.08 Sunday
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十九 薔薇と逃亡

 弥生さん、がんばつてまふ。。。(^。^)

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■ 十九 薔薇と逃亡
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 ―六角庭のベンチ、弥生は座ってソレージュを待つことにした。
「ヤヨイ……」
 声がした。
 弥生はあたりを見渡した。夕闇のなか誰もいない。
「ヤヨイ、こっちだよ。上!」
 見あげると、宮殿屋根の物見やぐらで誰かが明かりを左右に振っていた。ソレージュだ。
「陛下、そんなところで何を?」
「ここへ、あがっておいで……ヤヨイ」
「今、行くわ……」
 弥生は急いで建物の中に入り、物見やぐらへと通じている階段へと向かった。
 物見やぐらは、普段はほとんど使用されず、宮殿の飾りのような部屋に過ぎず、階段の入り口には金色の太い綱が横に張ってあった。弥生は、まわりに誰もいないのを確かめ、それをくぐっていった。
 やぐらに入る扉を開けるとソレージュがいた。
 弥生の姿を認めると、ソレージュは近づいてきた。
 もう一歩、距離がせばまると、弥生は平常心を失うと思いながら、
「陛下、ごきげん、うるわしゅう拝見いたします」
 そうぎこちなく言って、お辞儀をした。
 ソレージュは、聞いたこともないような挨拶に、少し笑って、
「なんだ、『陛下』とは、かたくるしい。『ソレージュ』と呼んではくれないのか?」
「はい、ソレージュ様」
「『様』……それもいらない。昨日とはうって変わって、よそよそしいのだな」
「こ、ここは、明かりがあるから……」
 弥生の声は、ソレージュの身のこなしや話しぶりに気おされた。また、これからおこることを瞬時に想像して少しふるえていた。それから、しばらくのあいだ目をつむり、かすかに息を吸いこむと、葉月に言われたとおりの姿勢をとって、
「ソレージュ」
 と呼んでみた。
 ソレージュ王は、ほほえんで弥生を見つめ、彼女の手を握ってきた。

  結局、ソレージュは簡単に弥生を引き寄せ抱きしめてしまったのだった。
 弥生の顔にソレージュの顔が迫ったとき、
「こ、こういうの、なれてません。こ、こわい……」
「しずかに。だいじょうぶだよ」
「悲しそうな王妃様の顔が目に浮かぶ……」
 と、弥生は水をさすような余計なことを言ってしまった。
 一瞬、ソレージュは勢いがなくなったか?
 だが、ついには、春の活力に支配され、弥生の唇をふさいでしまった。
 ―ふたりの顔が離れた。
 若いふたりには、緊張感が通り過ぎ、弥生は、うっとりとろけてしまっていた。
「ヤヨイ」
 真剣なソレージュのまなざしだった。
「あなたは、わたしと、永遠にともにいる、と言われたのだ」
「はい……」
 弥生は『はい』としか言えず、王の目をまともに見ることができなかった。とろけるような夢心地の気持ちは、すでに、さめてしまっていた。
 しかし、その伏せ目がちの弥生の態度に燃えたソレージュは、
「わたしは、あなたを、守ってあげよう。どこにも、行かせはしない。離しはしないぞ!」
 そう言って、ソレージュは右手を自分の胸に当てた。服の上からでも、その手はみるみるうちに赤く輝いて、手を差し出したその上に、薔薇の花が現れはじめたのだ。なんと、花は十個近くも数を増し咲いていた!
「さあ!」
 王は弥生に薔薇を摘むようにと言った。
「たぶん、これをとると、わたしの役目は終わってしまうのね」
「何を言うのだ! わたしたちの永遠の愛はこれからが幕開けで始まりとなるのだ!」
「薔薇つまりはサラマンドラ、と、わたし……。世界征服の欲と個人的な愛と……。たぶん……世界征服のほうが大切なのよ」
「ヤヨイ! あなたのためなら、何もかも捨ててもいいのです!」
 ソレージュは声を殺すようにして叫んだ。
 戸惑った弥生は、自分には王の愛を受け取る価値もないと思っていたが、
「わたしのこころには、ソレージュをずっと慕い続ける苦しみが待っていることでしょう」
 と、真紅の薔薇に手をのばして、
 薔薇を摘みとってしまった。
 ―葉月の部屋では、サツキが月を見あげていた。かぐや姫の気分はこうなのだろうか?
「この世界に来てからは、いろんなことがめまぐるしくて、頭んなか、ぎゅうぎゅう状態」
「わたしもうっかり自分の秘密を打ち明けちゃって……」
 と、葉月はベッドに寝そべり本をめくっていた。
「ああ、それ! ぎゅうぎゅうの最大原因だあ……」
「以後よろしく」
「葉月は葉月。告白きいたからといって、なにも変わらないよ」
「男なんだからと期待しないでね」
「あはは。男として期待したことは一度もないかも」
「そう簡単に言われると、がっくり」
「男とか女とか、いったいなんなのかしら?」
「役割分担。わたしは女の子の役割がしたい」
「女は男のサポート役だったりする」
「サポート?」
「葉月が女の子なら、こっそり教えてあげるけど。おばあちゃんの知恵」
「うかがいたいもんだ」
「あのね……」
「うん」
「女は男をサポートして、手柄をたてさせ花を持たせるようにすると、家庭がうまくおさまるのだって」
「おばあちゃんの意見?」
「そう。これは秘密の考え。男が女に守られるというという理論は、内緒にしておかないと、男は怒ると思うよ。女からも反対意見の人からブーイングくるし!」
「ブーブー!」
「ほらね、ブーイング!」
 サツキは大きな目を見開くと笑った。
 ―そのとき、弥生が帰ってきた。
「弥生! おつかれさま! どうだった?」
 サツキは真っ先に声をかけた。
 弥生の顔色はすぐれなかった。
「ああ……。だめだったか……」
 葉月は成功を信じていたので、ものすごく残念そうだった。
 すると、弥生はスカートの下に手をやった。
 薔薇の花は、スカートのなかに隠してきたのだ。それを出すとふたりに見せて、
「これだよ!」
「すごい!」と、サツキ。
「早く、逃げよう!」と、葉月。
「わたし、残る!」
 と、弥生はその場にうずくまってしまった。
 葉月は弥生と同じように身をかがめ、
「マックダリアン伯爵が警告したんだ。殺されるかもしれないって!」
「預言書、少し違ってたらしいじゃない? 男が三人やってきて、薔薇をとるんでしょ? 預言書どおりにならないよ。殺されはしないよ」
「弥生、惚れたな?」
 葉月はにやりとした。
「『惚れる』とかいう言葉、使うな! ひとことじゃ説明つかない!」
「馬車が来ているんだ」
「明日の朝四時に、ソレージュと約束したの」
「なにを?」
「ふたりで、レッドリバーに、これを投げに行くの」
「やめてよ。もうこれ以上かかわり持つと、もとの世界に戻れなくなっちゃう!」
「まごころの人を傷つけるようになるんだよ!」
「あはは。これは浮気! 本気でも不倫! 最後は捨てられる!」
「葉月!」
 弥生と葉月は、にらみあった。
 葉月は視線をそらして、
「わかったよ。わたしはサツキと行くから。天にも昇る恋でも楽しんでなさい!」
「ソレージュは、守ってくれると言ったわ!」
「じゃ、守ってもらえ! サラマンドラが軍に管理されてしまう前に、わたしはサラマンドラに乗って逃げる! マックダリアン伯爵と約束したんだ」
 葉月はガンとして受けつけなかった。
「サツキも、行っちゃうの?」
 弥生はサツキを見た。
 うなずいたサツキは葉月の男服の入った袋をしっかりとかかえなおして、
「王のことばでも、あてにならないよ。でも、弥生が命かけて愛する相手なら、そんな思いがこころにあるんなら……?」
「こんな短期間に? 命がけで思いを寄せるほど! 夢中になんてなれる? わたしは鈍感?」
 弥生は今にも泣き出しそうで、
「しかも、愛するってなんなの? ことばを信じるとか信じないとか、胸に焼きついて忘れられないとか、もう、わかんないよ!」
「でしょ、でしょ、でしょ!」
 と、葉月は荷物を弥生に押しつけ、いっしょに行くようせきたてた。
「待って……」
 弥生はまだ動かない。
「じゃ、もういちどきく! ソレージュに命すてれる? 大事なことだよ」
 と、サツキは深刻な様子でたずねた。
 弥生はうなだれたまま何も言わない。
「いいんだよ……。ソレージュは、ませてるから、聖なる精神愛をも要求してくるんだ。うざいんだな! ほっとけって!」
 と言い、葉月は弥生の手を引っ張る。
 こうして、三人の仲間は、伯爵が用意してくれた馬車へと走った。

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