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  • 2017.01.08 Sunday
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十八 葉月のカミングアウト

 葉月くんは、弥生の気持ちにストップかけて、自分の内面性を告げますよ。

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■ 十八 葉月のカミングアウト
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 ―葉月は思い出していた。マックダリアン伯爵が言ったことは、
「わたしはきみの言ったことを信じる。預言書によると、なんと、おそろしい。王は薔薇が奪われると、しだいに、人が変わったように、恋人を憎むようになるだろう。殺されるかもしれないほどだ。もし、薔薇を奪うことができれば、今夜だな、馬車は用意する。逃がしてあげよう。もちろん、薔薇は王の手に戻っても、レッドリバーに投げ込まれるであろうが。王の手のひらから薔薇を摘みとれるのは、恋人にしかできない。とにかく、サラマンドラは何頭か知らないが、よみがえらなければならない。もし、きみたちが薔薇をとらなくても、別の者が現れ、この役割をするであろう。パール国がサラマンドラを操るのだ。ハヅキ、これは宿命なのだよ。父とわたしはきみたちに賭けたのだ。幸運を祈る!」
 練兵場をあとにして、馬車の中で、葉月は考え込んだ。
(今夜、ほんとうに、王は六角庭に来るだろうか。薔薇はまだ咲いているのだろうか。今夜だ! 先のばしなどできない。王もそれを望んでいる! 鉄は熱いうちにたたけ!)
 葉月は、サラマンドラをよみがえらせるのが、自分たちの使命のように感じてくるのだった。バレーショ山には、なんとしても行かなければ、もとの世界には戻れない。一生かかってバレーショに向かいながら、さすらいの旅人になって、途中、世界の果てで命つきて死んでしまうより、飛行できるサラマンドラに命じて、そこへ行くほうが確実だ。だが、高所は耐えられるのだろうか。
「地面すれすれを低空飛行するように命じればいい!」
 と、葉月はひとりごとを言った。
 ―宮廷に帰ると、早速、葉月はエリンギ公爵夫人宛に手紙を書いた。

 本日午後から体調がすぐれず部屋にふせっております。
 姉たちの見舞いを受け、顔を見て話でもすると回復するような気がいたします。
 サツキとヤヨイを、午後から、わたしの部屋に来るよう許可をおあたえくださり、
 その旨をお伝えしてくださると感謝に存じます。ハヅキ

 
 ―サツキと弥生は、葉月の部屋に入った。
「どうなの? だいじょうぶ?」
 と、弥生は葉月が横になっているベッドにかけつけた。
 サツキはぶどうの入ったかごをかかえて後からついてきた。
 葉月はガバッと跳ね起きるとベッドに腰かけた。
「わあ、ぶどう!」
「公爵夫人からよ。元気そうじゃない」
 と言って、サツキはぶどうを手渡した。
 葉月は、袖口のレースのあいだからのびている格好のよい細い指で、ぶどうをつまんで、
「実はどこも悪くないんだ」
 葉月は力強く立ち上がった。
「ね! 今夜! 薔薇奪取を成功させて! 弥生、頼むよ! いい?」
 葉月はマックダリアンが話したことを、かいつまんで、ふたりに伝えた。
「馬車を宮廷の裏口通用門に用意しておくそうだ。薔薇を持参してもしなくても馬車に乗って逃げるんだ」
 葉月は、たんすの引き出しを開けて、自分の男服を取り出すと、
「動きやすいように、馬車の中で、この服に着替えるんだよ」
「薔薇は咲いていなかったら?」
 弥生はたずねた。
「まだ咲いている」
 葉月は言いきる。
「王のこころをだますの?」
「弥生だって、まんざら……」
「いやだよ」
「ここでの生活は耐えられる? 自分たちがこの世界のものでないことが、ばれないように、フリし続けるんだ。反対にそうとわかったら、理解されず、いつかなにかで殺されてしまうかもしれない。いいの?」
「それも、いや」
「うん。帰るしかないんだよ! サラマンドラしかない!」
「ソレージュとキスでもしたら、どうなっちゃうんだろう?」
「さあ……うらやましいね」
「え?」
「青春の一ページということで」
「やいてるの」
「なんとでも思って」
「わたし、キスまでしか、させないから……」
「最後まで、いきたいくせに」
「葉月!」
 弥生は泣き始めた。
 サツキは窓際に背をもたれさせて成り行きを見守り沈黙していた。
 弥生は美しい縁取りのレースハンカチで涙をふいていた。
「わたしの気持ち……」
 と、弥生が言おうとすると、葉月は、ぶどうをむしゃむしゃ食べて、例のアルコールが少し回って、
「弥生、いつも素直で正直に言ってくれて! ありがとう!」
 葉月は思い切って告げることにした。
「あのね……弥生の気持ちをくみ取れないんだよ……あのね、わたしね、女なの!」
「はっ?」
 弥生の涙の感情は無理やりストップさせられてしまった。
「生まれつき……女の子の気持ち……持ってる」
「なに……?」
「体は男でも、心は女」
「やだ!」
 弥生の顔は困惑とショックでゆがんでいた。
「いやでも、ほんとう!」
 葉月の言葉で、弥生とサツキは顔を見合わせた。
 第三の扉の前で、キュートなダンスをした葉月は、自分自身の女の子の気持ちを表現したのだと、サツキと弥生は妙に納得できたのである。また、日ごろからの葉月の態度には十分思い当たる節もあったので不思議ではなかった。
 葉月は、ふたりに、自分の気持ちとか苦悩とかすべてわかってほしいと思ったが、しょせんそれは当人以外のものには理解不可能であるのは承知していたので、
「弥生! 今夜は、なんとしてでも薔薇をとること!」
 と強い調子で言い、そして続けて、
「こう、腕をこんなにして、胸のラインがとてもいいので、相手に、こんな感じで、けして下品にならないように、女の子として、かわいく……」
 葉月は、弥生のそばに行き姿勢を正してポーズをとるように仕向けた。まるで自分自身が弥生に憑依でもするかのように、いかに、よりチャーミングな女の子に弥生を見せるかと、葉月は熱心にアドバイスするのであった。
 その真剣さには、サツキでさえも、横から口をはさむなど到底できそうもなかった。
 じつに! サツキは手持ち無沙汰でつまらなかった!
 窓の外には、昨日と同じ満月が、まだ青空なのに出現していた。二つの太陽は地平線に近く傾きかけている。
 それを見ていたサツキは、急に、
「ガガーッ! ゾンビにでも変身して美女の首をガブッと噛んでやるか!」
 と、弥生に襲いかかった。
 そして、三人の間に、どっと笑いがおこるのであった。
 葉月のカミングアウトは、弥生の残念な気持ちの整理はまだとはいえ、すんなりと受け入れられたのかもしれない。いや、まだピンと来ていないというのが本当かもしれない。
「―葉月、サツキ、ふたりは、ここに残って待ってて! わたし、ひとり行くよ! ソレージュと真剣勝負してくる!」
 弥生は気合が入っていた。
 弥生がドアを出て行くと、葉月とサツキは見送って、
「ラブロマンスなのに何かカンちがいしてない?」
 葉月の肩からドッと力が抜けたのだった。

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