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  • 2017.01.08 Sunday
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十六 王の園

 ここで、登場するサラマンドラなんですけろ・・うちのピーチがじつわ・・モデルなんです。www


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■ 十六 王の園
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 ―その後、葉月は宮殿の書庫に配属となった。マックダリアン伯爵が命じたのだった。
 これで、葉月は、サツキや弥生のいるエリンギ公爵夫人の居間に、暇さえあれば入り浸るようになった。先日の宴で人気をかっさらった葉月は、侍女たちの好意を得ることができた。また、サツキと弥生は葉月の姉ということで、たちまち、彼女らによって優遇されるようになった。つまり、居心地よかったわけだ。
 連日、何かの用事を作っては、エリンギ公爵夫人の居間に来る客人が自然と増え、王妃や他の女官たちの居間よりも華やぐようになった。夫人は内心とても喜んでいた。宮廷内で人気を勝ち取ることは、敵対するものも多くなるとはいえ、資金や情報の流れも多くなり、女官として時には政治的なことに関わるものとして、好都合なのことであった。人気イコール力だった。
 公爵夫人は余興を考えるのに大忙しであった。訪問者を今後もつなぎとめておくために、いろんなことの約束をとりつけていった。すなわち、賭け事のカード遊び会をしたり、楽師を呼んで演奏会や舞踏の練習をしたり、詩人を招いて朗読会を催したり、客人を喜ばせることなら何でもした。夫人は足りないとみたイベント開催資金は、莫大な私有財産から思う存分支出することができた。
 そして、ソレージュ王までもが公爵夫人のサロンにやってくるようになった。
 お目当ては弥生だった。王妃を伴うことは一度もなく、あきらかに弥生目当てなのは明らかだった。いつも弥生の側にいて離れない。弥生の側には葉月とサツキもいる。なごやかな四人の気の合うムードは最良で会話は絶妙であった。ソレージュは図師より四歳年上だが三人を友のように接していた。彼らが上流社会の言葉になれていないことを、王は気にする風でもなく、むしろ、「愉快でかわいい」とさえ言って楽しそうにたわむれていた。
 これまで王と同じ年頃の貴族もお供としてやって来ていたが、公爵夫人のサロンの空気になじまないのか、しだいに遠のくようになった。王の気まぐれはいつものことで、すぐに恋心は別の女性に向くだろうと、ほとんどのものは何も気にしていなかった。
 三人の仲間のうち、やはり、おしゃべり好きなサツキが話しているときが多く、
 続いて葉月。
 弥生はうなずいてばかりいた。従順な様子で、時々笑みを浮かべ、情熱のまなざしを向ける。弥生はこの繰り返しだった。

 「ジャン・ハヅキ・ド・ラ・ビーア子爵、ざっくばらんにジャンと呼んでもさしつかえないだろうか?」
 と、王はたずねた。
「ミドルネームのハヅキの方が呼ばれ親しんでおります」
 葉月の瞳は漆黒なのに、透き通っているかのようで、ソレージュは吸い込まれていきそうだ。
「ハヅキ。レディのかたも、ヤヨイ、サツキ……よろしいかな?」
「はい、陛下、それでよろしゅうございます」 
 サツキと弥生は同意した。
「四人だけになったら、陛下と呼ばずに、ソレージュと呼んでほしい。即位してからは、ほんとにいろいろな仕事や堅苦しいことが多すぎてな。王子の頃はよかった。あの頃は、マシューたちとよく遊んだものだ。あれ? マシューは来ていないのか? なんだつまらんな」
 王の言葉に三人は、ほほえんでいた。
「―庭が美しい季節になりました。六角庭に出てみませんか?」
 王の誘いで庭の散策が行われた。エリンギ公爵夫人のサロンに集まった人たちの大半が出かけていって、春の陽気を満喫しながら、そぞろ歩いていた。
 すると、王妃と侍女たちの集団に出くわした。
 エリンギ公爵夫人の集団はかたずを飲んでシーンと静まり返った。
 ソレージュ王は弥生の隣を歩いていたが、足早に葉月のそばに移動して、王妃に挨拶する。
「今夜のディナーに、こちらの、ラ・ビーア子爵と、姉妹方を誘いました。王妃もごいっしょなさいませんか?」
 そう言って、王は葉月に挨拶するように目で合図した。
 葉月は宮廷風に優雅なお辞儀をした。
 王妃は挨拶をうなずいて受け取ると、
「わたくしは風邪気味でございます」
 と言い咳き込んだ。
「春の日差しに十分におあたりになり温かくされるといいでしょう。夕方、調子がよければどうぞおいでになってください。きじ鳥のクリームスープや、海鮮料理を作るよう手配しました。では、ダイニングでお待ちしております」
 と、王は王妃の肩に手を回して優しく言った。
 こんな風に、うわべは『気品で優雅』でも、欲望を満たすためなのかなんなのか、権力を持った人によって、ひどいことが堂々と行われ、神の平安などかいもくないのであった。
 ―三人の仲間は王の居室にいた。王が入ってくると、彼らは立ち上がり礼をした。
 王は昼間よりもずっと気楽な感じで、図師が本当に目前にいるような錯覚にとらわれるのだった。部屋には四人以外だれもいなかった。王妃は来ないのだろうか?
 ソレージュはテーブルの上においてあった大きな書物のほうに行って、彼らを呼んだ。
「サラマンドラの伝説。聞いたことがあるだろう」
 と言い、王はページをめくった。本には色とりどりの巧みな絵がたくさん描いてあり、好奇心がそそられた。ある箇所に来ると、王の美しい手はとまって指をさした。
「王家の紋章でございますね」
 と、葉月は言った。
 王は次のページをめくった。そこには火を吐く怪獣に乗った兵士たちの戦闘シーンが描かれていた。
「勇ましい絵だろう! わたしもぜひサラマンドラに乗って戦ってみたいものだ!」
 と、ソレージュは言った。
「宇宙の壷、あそこにあったトカゲ!」
 サツキは叫んでから、言いなおして、
「トカゲでございます……」
「いいのだよ。普段どおり、きょうだいのように話してもらっていいんだ」
「わたしたちは、これと同じ模型の置物を見たの」
「なんと! どこで?」
「国で……」
 サツキはくわしくは説明できなかった。
 王は書物から離れ、考えごとをしながら部屋のなかを行ったり来たりした。
 それから、意を決したように三人のところにやってきて、王は胸のボタンをはずして懐に手を入れた。王の胸もとは、はだけていてなまめかしく、三人はいくぶん顔を赤らめ目をそらしてしまった。
 そして、王は懐から手を出した。なんと、それは、炉で熱くなった鉄のように真っ赤になっていた!
「見ていてごらんなさい……」
 と、ソレージュは言い、手のひらを目の高さにかかげた。
 すると、大輪の薔薇がその上に現れゆっくりと花びらが開いていった。
 四人は赤い薔薇を見つめたまま何も言えなかった。
 手を閉じると薔薇は消えてしまい、その手を再び懐におさめて、みんなの前に出すと、もとの優雅で美しい手となった。
 ソレージュは書物に書いてある詩を読みあげた。

 王のこころは薔薇の園
 真紅の花を咲かせたり
 見事な花を咲かせたり

 それを差し出す恋人はだれなのか?
 王のこころを射止めるそなたなり
 それを摘み取る恋人はだれなのか?
 王のこころを射止めるそなたなり

「父上や祖父王も、このような、こころに薔薇が咲いたのかは、うかがってこなかった」
 王は書物から目を離し弥生の顔を見ると、
「あなたを見たときから、この花が咲くというのが分かった。先日の宴が終わったその夜に、胸が熱くなり手をやると、さっきのようになったのだ」
 王の言葉に、弥生は戸惑い、葉月は目を伏せ、サツキは美しい目を大きく見開いた。
「王妃でないというのが残念だが……」
 と、ソレージュは多少の罪悪感を覚えてため息をついた。
「わたしは一目ぼれというものを信じません。一瞬の胸のときめきは永遠に続くものとは思いません」
 と、弥生は言った。
「洒落っけのないことをいう。王妃と同じだな」
「女性はみんなそうですよ。王妃様がかわいそうです」
 そう言ってサツキは昼間の王妃の暗い顔を思い出していた。
「一瞬のときめきが持続するように女性の側も努力すべきでしょう」
 葉月が横から口をはさんだ。
「ほう、子爵もよいことをいうな」
「ハヅキです」
「そうであった。ハヅキ、きみも故郷でも人気者であったのであろう。いまや宮廷ではハヅキの話題でもちきりだ。きみが来るといえば王妃も来ると思っていたのに、まことに遊び心のない人だ……」
 ソレージュは、周りの人には王妃のことを絶対にこぼせない。いや、それは禁句なのだ。三人の前では、聞いてほしいと言わんばかりだった。
 しかし、王妃のことにはふれず、葉月は、
「男にはよく殴られてた」
「はは。なんでだ?」
「相手の気にさわるんでしょ」と、葉月。
 サツキはニヤリとしながら、
「ソレージュは宮廷にいて、あまりなじまないと思うけど、国の農民たちの間では、『色男、金と力はなかりけり』という、めちゃくちゃ、お品のない格言があるんだよ。葉月は金と力を手にする前段階の男で、ライバルは早期の段階で、やっつけてしまえと、そういうのでないかと……」
「はは。サツキはいつも愉快なことを言う。ハヅキが金と力を手にしたいのなら、ヤヨイとわたしの仲を歓迎すべきだな」
 と、王の態度は悠然としている。
 だれも何も言わないのでソレージュは続けた。
「実をいうと、薔薇の花が咲くようになったのは、ヤヨイの前に、三人いるのだ。けれども、翌日か、その次の日には、手は熱くなることはないし、花も咲かなかった」
「ときめきは続かない」と、サツキ。
「真実か……」と、葉月。
「ヤヨイの場合は、もう一ヶ月も過ぎている。しかも花の大きさが毎回大きくなっている」
 王はさっきの詩の続きを読んだ。

 さあ花びらを投げてみよ
 レッドリバーに投げてみよ
 サラマンドラがよみがえる
 火を吐きながらよみがえる

 勇者を背にして空を飛ぶ
 火を吐きながら空を飛ぶ
 北はゲンツァーイから
 南はバレーショまで

 神に愛される麗しのパール
 わが愛する祖国パール
 サラマンドラで戦って
 サラマンドラで救われたり

「私のこころから花を摘み取ってくれ。サラマンドラをこの目で見てみたい。辺境地域を制圧し苦しむ人々に平和を与えたい。わたしのこころをもっと燃えたぎらせてほしいのだ」
「陛下」
「なんだ?」
「三つの願い」
 ソレージュと三人の仲間は例の小鳥がさえずるがごとくにやり取りをはじめた。
「サラマンドラを見たい」と、弥生。
「辺境地域の平和」と、葉月。
「魂のきらめきをともなう肉欲の充足」と、サツキ。
「鋭いサツキ!」
「まかせて」
「肉欲の充足とは赤裸々だな。話の内容が過激すぎる! きみたちはきょうだい同士であろうに!」
「異母兄弟。幼い頃はお互いのことを知りません」
「ほんの最近きょうだいだと引き合わせられました」
「絶句だな。何も聞かないことにいたそう。きみたちの涙は見たくない」
「さて、こちらが質問、サラマンドラとは?」
「この絵の通りの怪獣だ。行き先を告げると、そこへひとっ飛び」
「ゲンツァーイやバレーショは世界の果ての果て」
「そのとおりだ、ハヅキ。わが国パールは世界を統一するのだ」
「世界統一と聞けば、なにげに危険な香り」
「世界平和だ」
「政治的なことはくわしくは分かりませんから」
「よろしい! 政治はまかせなさい!」
「サラマンドラは人間と話ができるの?」
「馬より賢いかもしれん」
「とにかく見てみたいと思わないか?」
「サラマンドラはおいといて、平和と肉欲は天秤にかけるとどちらの思いが強いのか?」
「王の立場だと前者。ソレージュ個人としては後者」
「真実の愛と誓える?」
「わが国の法律を変えてみせよう。側室をもうけてもよいように」
「次々と女をつくりそうだな」
「かならずね」
「弥生どうする?」
「そんなこと言われても」
「きみたちね。ロマンチックになれないものかね」
「ソレージュのことはきょうだいだと感じるから」
「そうか! 嬉しいよ! きみたちがきょうだいだとは! 王とは孤独な存在なのだ!」
「うん。真紅の薔薇だよね」
「さっきのすごかったよ」
「ソレージュ、もう一回出してみてよ」
「今この場で薔薇を摘み取ればいいんだ」
「賛成」
「じゃ、もう一回。こんなはずでは……しぼんでたらどうするんだ?」
「この話はなかったことに」
「次の女性を見つけてください」
「王の気持ちを! こんな、あしらい方しおって!」
「陛下、お慕い申しあげております」
「平和はだれも願うところ」
「薔薇は弥生が摘みとれます」
「まるで魔術師の気分だ……。ならば……もう一度」
 ソレージュは懐に手を当てた。
 薔薇だ! しかも二輪の花に増えていた!
「さあ、弥生、薔薇をとって!」
 サツキは弥生に言った。
 弥生は震える手で薔薇をとろうとしたが、それはつかめない。なんの手ごたえもなかった。
 ―そのとき、晩餐の用意が整った、との声がかかった。


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